- 医学部に入学したいと考えているけど、医学部に入学するほどの学力はなくて地域枠での受験を考えている人
- 家庭の事情から学費が安く済む地域枠での医学部受験を考えている人
- 子供が地域枠での医学部受験を考えているけれど、勧めて良いものなのか不安な親御さん
以上のように医学部の地域枠入試を考えている受験生やその親御さんの中には、
以上のようなことが気になっている人もいるでしょう。
当記事では、実際に地域枠受験を検討した医学生の立場から、地域枠で医学部に入学するメリット・デメリットについて説明しました。
- 大学に入った後、学力が低くてついていけなくなるのか
- 地域枠だからという理由で下に見られてしまうことはないか
ということまで説明したので、地域枠入試に不安を抱えている人はぜひご覧ください。
医学部医学科の地域枠とは
医学部の地域枠とは、医師の偏在を解消するために一定期間(基本的には9年間)、その大学のある都道府県が指定する地域や診療科で働くという制約のもと、実施される大学入試制度です。
言い換えれば、「医学部に学力は低くくても入学できるけど、卒業後は僻地で働かなければならない」という制度です。
入試形態は大学によって様々で、
- 面接と共通入試の結果のみで決まるもの
- 共通入試や面接に加えて大学独自の試験を受けなければならないもの
- 地域枠を設けている大学がある県や近隣の県の出身者しか応募できないもの
- 地域枠を設けている大学がある県だけでなく全国から応募できるもの
- 1浪までしか応募資格のないもの
- 3浪以上でも応募可能なもの
と、大学によって異なります。地域枠で医学部に出願したい場合には、応募資格があるのか、入試形態はどのようなものなのかきちんと確認することが大切です。
この地域枠制度は、少子高齢化が進む現代において、地方の医師不足を補うために、各大学や各都道府県で行われており、定員の人数も年々増加傾向にあります。
ここからは、医学部の地域枠は実際のところどうなのか、メリット・デメリットについて見ていきましょう。
医学部地域枠のメリット
まずは医学部の地域枠のメリットについて見ていきます。
▼地域枠のメリット
- 学力的なハードルが比較的低い
- 在学中は返済不要の奨学金が受け取れる
メリット①学力的なハードルが比較的低い
まず地域枠の1番のメリットは学力的なハードルが比較的低いということです。
地域枠で医学部を受験する場合、一般入試と比べて倍率が低い傾向があり、定員割れしている大学も複数存在します。そのため、必要とされる共通テストや試験の点数が低くなることが多いのです。
僕の通う医学部でも、地域枠で入学した学生の中にはセンター試験(今でいう共通テスト)の点数が70〜75%くらいで合格している人も一定数います。
「学力的には医学部の合格は難しかったので、地域枠で医学部を受験してよかった」と言う人もちらほら見かけますよ。
高校時代に部活やボランティア、生徒会など勉強以外で頑張ったことがある人やコミュニケーション能力の高い人にとっては、地域枠を利用することでさらに医学部受験を有利に進めることができます。
このように学力的な偏差値が低かったとしても医学部に入学できる可能性が大いにあるというのは大きなメリットです。
ただし、学力的なハードルが低いからといって、必ずしも医学部に「入りやすい」「受かりやすい」「入学するのが簡単」とは限りません。
まずどんなに低かったとしても共通テストで7割以上取れることが絶対条件です。共通テストで7割以上というと簡単そうですが、全受験生の20%以内には必ず入る必要があるということを意味します。
また、要求される学力は低くかったとしても、面接でそれ相応の対人能力・コミュニケーション能力が必要とされたり、学生時代に実績のある活動をしてきていることが求められたりします。特に、地域枠推薦の場合には、学力的には十分でも不合格にされることは珍しくありません。
僕の地元の国立医学部でも、センター試験(今でいう共通テスト)で9割近くとっている人が地域枠の推薦で落とされてその大学の一般入試で合格しているという例もあります。
つまり、地域枠推薦には、模試や試験で測られる学力とは違うベクトルの難しさがあるということです。
地域枠の推薦や面接のために半年以上も前から対策してくる人もいるので、1ヶ月やそこら対策した程度では、そういった受験生には到底敵わない場合もあります。
このように、必要な偏差値が低いからといって、地域枠の方が必ずしも「入りやすい」「受かりやすい」「医学部に入学するのが簡単」とは限らないということは注意しておきましょう。
メリット②在学中は返済不要の奨学金が受け取れる
医学部に地域枠で入学する2つ目のメリットが在学中は返済不要の奨学金が受け取れるため、親の経済的負担(学費)を大幅に軽減できるということです。
地域枠で入学した学生には、国立大学医学部の場合で月10万~20万円の奨学金が貸与されることがほとんどです。その上、その奨学金は一定の条件を満たすことで返済の義務がなくなります。月10万~20万円の奨学金を医学部在学中の6年間受け取れば、720万〜1440万円になります。
また、大学によっては月10万円の奨学金に加えて大学の学費が免除になる大学もあります。
経済的な理由で医学部への受験を諦めかけていた人にとっては、かなり有難い制度なのではないでしょうか。
ただし、大学によっては奨学金が支給されない地域枠もあるようなので、きちんと要項を読むようにしましょう。
医学部地域枠のデメリット
ここからは、医学部に地域枠で入学するデメリットについて説明していきます。
▼地域枠のデメリット
- 卒業後の勤務先やキャリアが制限される
- 原則地域枠の離脱はできない(離脱すると重いペナルティを受ける)
デメリット①卒業後の勤務先やキャリアが制限される
まず1つ目のデメリットが卒業後の勤務先・就職先が制限されるということです。
地域枠で入学した場合、卒業後の9年間(大学によっては卒業後の6~11年間)は都道府県が指定する地域で働かなければならないという義務があることがほとんどです。また、大学によっては救急や小児科、産婦人科、総合診療科のみと診療科を限定されている場合もあります。
このように、地域枠で入学する場合には、卒業後に様々な縛りを受けることになります。
しかし、在学中の6年間で想定外の分野に興味を持ったり、医療の勉強を進める過程で憧れの教授・先生と出会って入学時とは180°気持ちが変化したりすることは十分考えられるのです。「都会の有名病院に就職したい」「臨床医ではなく研究医になりたい」「美容外科や放射線科にいきたい」と思っても入学してからでは遅い場合もあり得ます。在学中に付き合った恋人と地域枠の制限のために別れるという選択をしなければならなくなることだって考えられるでしょう。
そのため、医学部の地域枠受験を考えている人は、
- 自分が地域枠で入学しようとしている大学の制限(勤務先の制限や診療科の制限)を受け入れられるか
- もし在学中に気持ちの変化があったとしても我慢できるか
ということをきちんと考えた上で受験することが大切です。
デメリット②原則地域枠の離脱はできない(離脱すると重いペナルティを受ける)
医学部に地域枠で入学する2つ目のデメリットが基本的には地域枠を離脱することはできないということです。
地域枠を離脱する場合、都道府県の同意を得る必要がありますが、地域枠の離脱が合意されるのは、医師国家試験に不合格となった場合や退学した場合、死亡した場合など基本的には医者になれない場合のみです。出産や結婚、病気などといった個人的な理由で地域枠を離脱することは原則できないのです。
もし都道府県の同意を得ずに地域枠を離脱した場合には重いペナルティが課せられることになります。
地域枠を同意なしに離脱した場合のペナルティは次のようなものです。
- 貸与された奨学金の一括返済を要求されるうえ、その利子も10%とかなり高い
- 後期研修を終えても専門医資格が得られない
- 元地域枠離脱者を雇った病院は厚労省からの補助金を減額されるので、補助金の対象となる大病院に就職するのは困難になる
このように地域枠離脱者には多くの罰則が課せられる上、地域枠離脱に対するペナルティは強まる傾向にあるようなので、基本的には地域枠の離脱はできないと考えておきましょう。
医学部の地域枠入試に関するよくある不安
地域枠は大学に入った後、学力が低くてついていけなくなる?
地域枠で入学した学生は一般入試で合格した学生に比べて偏差値や学力が低いため、勉強についていけなくなるのではないかという不安を抱えている人もいるのではないでしょうか。
結論から言うと、地域枠だからといって学力的に医学部の勉強についていけなくなると言うことはほとんどありません。
医学部の勉強は暗記ゲーで、難しい計算問題や複雑な論理的思考を要する問題が解ける必要はありません。覚えた分だけ勉強した分だけ試験の点につながります。
そのため、医師への志が高い人の多い地域枠の学生の方が大学の留年率も低く、医師国家試験の合格率も高い傾向にあるようです。
僕の大学でも、試験の再試にかかっているのは、(僕を含めて)一般受験で入学した学生が多いですよ。
地域枠だからという理由で下に見られてしまう?
大学に入学したら地域枠だからと言う理由で、下に見られたり除け者にされたりするのではないかと不安に感じている人もいます。
結論から言うと、大学に入学してしまえば誰が地域枠で誰が一般受験かということを気にしている人はほぼいません。地域枠の学生は地域枠で固まると言うこともありませんし、地域枠だからという理由で除け者にされることなんてまずありません。
地域枠だと無条件で離島や僻地に飛ばされる?
地域枠で入学すると、離島や半径1km以内に家がない僻地に飛ばされて働かなければならなくなると考えている人がいますが、必ずしもそうとは限りません。
地域枠で入学した場合、基本的には、地方の基幹的病院と言われる地域医療の拠点となる病院で勤務することになるようです。
まとめ
ここまで、地域枠のメリット・デメリットについて説明してきました。医学部に地域枠で入学するメリット・デメリットは以下の通りです。
▼地域枠のメリット
- 学力的なハードルが比較的低い
- 在学中は返済不要の奨学金が受け取れる
▼地域枠のデメリット
- 卒業後の勤務先やキャリアが制限される
- 原則地域枠の離脱はできない(離脱すると重いペナルティを受ける)
医学部の地域枠受験は学力的ハードルが下がったり経済的負担を軽減できたりするぶん、卒業後の勤務先やキャリア、将来のライフプランが制限されることになります。医学部に学力的ハードルを感じている人にとってはメリットの大きい制度ですが、入学が簡単になるからという理由だけで選んでしまうと将来後悔する可能性もあります。
6年後の未来を高校生の今から思い描くことは難しいかもしれませんが、
- 自分が地域枠で入学しようとしている大学の制限(勤務先の制限や診療科の制限)を受け入れられるか
- もし在学中に気持ちの変化があったとしても我慢できるか
ということをきちんと考えた上で地域枠受験することが大切です。
この縛りを受け入れられない、もしくは可能性を広げておきたい場合には、一般受験での入学をおすすめします。医学部は1浪以上が半分を占める世界です。もし現役で合格できず、1浪したとしても卒後の縛りのない方が医師として自分にぴったりのキャリアを歩めるかもしれません。無理に地域枠で医学部に入学せずとも浪人を受け入れるのも1つの選択です。(浪人を前提にするのはダメですが、、)
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